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札幌高等裁判所 昭和25年(う)380号 判決 1950年12月12日

控訴人 被告人 衣川義文

弁護人 木田茂晴 外一名

検察官 小松不二雄関与

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌地方裁判所小樽支部に差し戻す。

理由

弁護人木田茂晴同杉之原舜一の控訴趣意は別紙記載のとおりである。

第一点について、

原判決引用の麻薬取締員西村裕吉の被告人に対する第一回供述調書及び検察官の被告人に対する第一回供述調書の各記載と本件起訴状の記載とを対照すると右各供述が自白であることが認められるから、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取り調べをすることができないことは刑事訴訟法第三百一条の法意に照し明白である。しかし同条にいう他の証拠というのは、自白以外の一切の証拠というのではなく、犯罪事実に関する何等かの証拠の意と解すべきであるところ、前示各供述調書は、犯罪事実に関する他の証拠である、北海道余市保健所長熊谷直之作成の麻薬取締法違反被疑事件についてと題する書面、秋野武夫に対する検察官第一回供述調書、麻薬台帳二册を取り調べた後、その取調がなされたことは本件記録に徴し明瞭であるから、冐頭掲記の各供述調書の取調が弁護人主張の証人尋問前になされたからといつて、その取調を目して違法ということができない。従つて、前示被告人の各供述調書を証拠とした原判決は正当で、所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

次に職権を以て按ずるに、麻薬取締法第三十八条第一項は麻薬施用者は麻薬を他人又は家畜の疾病治療にのみ用うべきことを規定し、これを自己に施用することを禁止し、そうして更に、同法第三十九条を以て前者の行為を制限し、その中特に麻薬の中毒症状を緩和するため、又は中毒を治療するために麻薬を用うることを禁止しているのである。従つて麻薬施用者が自己の麻薬中毒を緩和するため、又は中毒を治療するために麻薬を施用した場合は、右第三十八条第一項第五十七条違反の罪を構成し、別になお、右第三十九条第五十七条違反の罪を構成しないものといわなくてはならない。しかるに、原判決はその認定事実のうち、被告人の麻薬使用の所為が麻薬取締法第三十八条第一項第三十九条(原判決中第二十八条第二十九条とあるは上記の誤記と認める)第五十七条に該当し、且つ刑法第四十五条前段の併合罪であるとして、同法第四十七条を適用しているのは、その法令の適用に誤があり、その誤が判決に影響を及ぼすこと明白である。又原判決はその事実理由中に「………等を使用し、且之に関する記録を作成保存しなかつたものである」と判示し、これに対し、右取締法第十四条第五十九条を適用しているのであるが、右第十四条は麻薬取扱者はその備付の帳簿に同条所定の事項を記入すべきことを命じてはいるが、同法第四十二条のように記録の作成を命じていないのであるから、右第十四条第五十九条違反罪の罪となるべき事実の判示としては不備であつて、結局判決に理由を附せないか、理由にくいちがいがあるものとのそしりを免れない。以上のいづれの点からするも原判決は到底破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条本文に則り、本件を札幌地方裁判所小樽支部に差し戻すことゝし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事 鈴木進)

弁護人木田茂晴同杉之原舜一の控訴趣意

第一点原審第一回の公判期日に於て裁判所は被告人に対する麻薬取締員の第一回供述調書、被告人に対する検察官の第一回供述調書の証拠調べをした。

それに付いては被告人及弁護人からは異議の申立てはなかつたのであるが此等の証拠は其異議の有無に拘らず他の証拠調べが行われた後に為されなけばならないものであることは貴庁の判例の示す通りである。而して同公判に於て弁護人は証人塚田竜爾の証拠調べの申請をして之が許可され同証人は昭和二十五年三月二十日取調べられたことは記録の上に明かであるから原判決は証拠調べの手続きに違背して証拠調べをした違法がある。そして又検察官の被告人に対する第一回供述調書は原判決の証拠として採用しているのであるが此違法無効な証拠調べは判決に影響するものと言わなければならない。即ち原判決は破毀し貴庁に於て事実審理を開始せられたい。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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